日本のVCが投資先に「AIネイティブ経営」を求め始めた|2026年の過渡期に向けて

田中 慎

田中 慎

CEO / PM / Vibe Coder

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日本のVCが投資先に「AIネイティブ経営」を求め始めた|2026年の過渡期に向けて

日本のVCが投資先企業に対して「AIネイティブな経営」を求める動きが始まっています。筆者自身、それなりのファンドサイズを持つ複数のVCから、投資先企業の経営者向けにAI推進の旗振りやPM支援の依頼を受けることが増えてきました。2026年はこの流れが本格化する過渡期になりそうです。

グローバルVCのAI投資トレンド:ポートフォリオ企業のAI変革を加速

この動きは日本だけではありません。グローバルでは既にVCがポートフォリオ企業のAI変革を積極的に支援する流れが本格化しています。

2025年、米国VCの投資額の65.4%がAI・機械学習分野に集中。これは過去10年で最高の割合であり、VCの3分の2のお金がAI企業に流れている状況です。グローバルのVC投資総額も2021年・2022年に次ぐ過去3番目の規模に達しています。

Thrive Capital × OpenAIの動き

Thrive Capitalは「Thrive Holdings」を設立し、OpenAIとパートナーシップを締結。投資先企業のAI変革を2年以内にEBITDA 1億ドル規模に引き上げることを目指す戦略を展開。Elad Gil、Khosla Ventures、8VCなども同様のアプローチを採用しています。

Andreessen Horowitz(a16z)も、AI特化の200億ドル規模ファンドを組成中と報じられており、ポートフォリオ企業へのフォローオン投資を強化。「AIを前提とした企業だけが生き残る」という見方が、グローバルVCの間で共通認識になりつつあります。

日本のVCから投資先へのAIネイティブ経営シフト要請が始まっている

最近、複数のVCから「投資先企業のAI活用を推進したい」という相談を受けることが増えました。具体的には、ポートフォリオ企業の経営者向けにAI推進の旗振り役を担ってほしい、PM(プロジェクトマネージャー)として伴走してほしいという依頼です。

これは単なる「最新技術の導入支援」ではありません。VCが投資先のバリューアップ施策として、AIネイティブな経営体制への転換を本気で求め始めているということです。投資先企業の競争力を高めるために、AIの活用は「あれば便利」から「必須条件」へと変わりつつあります。

国内VCの変化:VCからの典型的な要請内容
国内VCからの典型的な要請内容

VCからの典型的な依頼内容

  • ・投資先経営者へのAI活用啓蒙・教育
  • ・AI推進プロジェクトの企画・PMO
  • ・経営層向けのハンズオン支援
  • ・AIネイティブ組織への変革支援

【事例】ダイニーが事業成長中でもAI変革で2割の人員削減を決断

ダイニー事例:事業成長率300%の中で断行された人員2割削減
事業成長300%の只中でAI変革を断行したダイニーの決断

国内でも象徴的な事例が出てきています。飲食業界向けDXサービスを展開する株式会社ダイニーは、2025年に全社員約200人の2割にあたる約30〜40人を対象に退職勧奨を実施しました。

注目すべきは、事業は極めて順調だったこと。売上は前年比2倍、導入店舗数は1万1000店に到達し、ARRは2023年対比で3倍という爆発的な成長の只中での決断でした。

ダイニーのAI変革

  • ・2024年末からAIを全社的に導入開始
  • ・議事録作成、カスタマーサポート、営業資料作成などでAI活用を急速に推進
  • ・「AIを中核に据え、人間がそれを補助する構造」への転換を明言
  • ・エンジニアは「AIと協働できる優秀な人材のみを厳選採用」する方針

ダイニーの事例が示すのは、競合よりも事業が伸びていて、資金が潤沢であっても、採用をフリーズしてAI変革(AX)に力を割く企業が増えているという現実です。

AI変革(AX)のインパクト:エンジニア10名で8,000万〜1億円

AI変革がもたらすコストインパクトを具体的に見てみましょう。

エンジニア1名の年間コストは、年収に加えて福利厚生、オフィス、機材、採用費用などを含めると800万〜1,000万円に達します。エンジニア10名を削減するだけで、年間8,000万〜1億円のコスト削減になる計算です。

📊 AI変革による年間コスト削減試算

削減人数 年間削減額(試算)
エンジニア5名 4,000万〜5,000万円
エンジニア10名 8,000万〜1億円
エンジニア20名 1.6億〜2億円

※ 年収+福利厚生・オフィス・機材・採用費用を含む総コストで試算

しかし、AI変革の本質はコスト削減だけではありません。

AI変革の本質:ナレッジマネジメントと経営の再現性

AI変革(AX)の本質:ナレッジマネジメントと経営の再現性
AI変革がもたらす「再現性」のサイクル

AI変革がもたらす真の価値は、ナレッジマネジメント意識の向上と、経営・事業・開発の再現性にあります。

AIを活用するためには、社内のデータとドキュメントを整備し、AIに読み込ませる必要があります。この過程で自然と「暗黙知の形式知化」が進み、組織のナレッジマネジメント意識が高まります。

  • データの整備:AIに食わせるために構造化されたデータが必要 → データ基盤が強化される
  • ドキュメントの整備:AIが参照できる形での知識の蓄積 → 属人化が解消される
  • プロセスの標準化:AIワークフローに組み込むために業務が整理される → 再現性が高まる
  • 意思決定の透明化:AIへの指示を明文化することで判断基準が可視化される

AIを単なる効率化ツールではなくビジネスの核に据えることで、経営や事業、開発の再現性が生まれます。これはコスト削減以上に、企業の競争力を根本から変える変革です。

AI Transformation(AX)の本質

AI変革=AXは、単なるツール導入やコスト削減ではない。データとドキュメントをAIに食わせることで、経営・事業・開発の再現性を生み出し、組織の知的資産を継続的に活用可能にする構造改革である。

なぜVCが「AIネイティブ経営」を求めるのか

投資先のバリューアップにAI活用が不可欠に

VCにとって投資先のバリューアップは最重要ミッションです。従来は売上拡大や組織体制の強化が中心でしたが、今やAI活用による生産性向上・競争力強化が不可欠な要素になっています。

Norwest Venture PartnersのScott Beechuk氏も「2025年がAIインフラ構築の年だったとすれば、2026年はアプリケーション層が投資を実際の価値に変える年になる」と述べています。

競争力の源泉がAI活用度で決まる時代

スタートアップの競争環境は急速に変化しています。AIを使わない経営者は淘汰される時代が近づいており、同じ市場で戦う企業間でAI活用度の差が競争力の決定的な差になりつつあります。

AXが進まない企業はどんどん淘汰されていく——これはもはや警告ではなく、現実のトレンドとして顕在化しています。VCとしては、投資先がAI活用で後れを取ることは投資リターンの毀損に直結します。

2026年がAIネイティブ経営の過渡期になる理由

2026年問題:AI実験期から「統合と淘汰」への移行
2026年は「統合と淘汰」の年になる

なぜ2026年が過渡期なのか。それは多くの企業にとって、外圧がないとAI推進に本気で取り組めないという現実があるからです。

日々の業務に追われる経営者にとって、AI活用は「重要だけど緊急ではない」タスクになりがちです。いくらChatGPTの有料課金がキャリアに影響すると言われても、具体的なアクションに移せる企業は限られています。

しかし、2026年は企業が「AIツールの実験」から「AIの実用化と統合」へ移行する年になると予測されています。Databricks VenturesのAndrew Ferguson氏は「2026年は企業がAIへの投資を統合し、勝者を選び、実験予算を削減し、重複するツールを整理する年になる」と述べています。

外圧がAI推進を加速させる構図

自社だけでは「いつかやろう」で終わりがちなAI推進も、VCからの明確な期待があれば経営課題として優先度が上がる。外圧を「機会」として活かせる企業が勝ち残る。

なぜ日本企業のAIネイティブ化は遅れているのか

グローバルと比較して、日本企業のAIネイティブ化が遅れている背景には、いくつかの構造的な要因があります。

競争環境の認識が甘い:異業種からの参入リスク

競争環境の激変:技術的参入障壁の崩壊と異業種参入
技術的参入障壁の崩壊がもたらす競争構造の変化

日本企業の多くは、競争環境の変化に対する認識が甘いのが実情です。AI時代において、今後はこれまで競合ではなかった企業が、突然競合になってくるケースが増えていきます。

開発コストが劇的に下がったことで、ビジネスの実行力がある企業が技術力の壁を乗り越えてどんどん市場を開拓できる時代になりました。従来は「技術的な参入障壁」が守りになっていた企業も、AIによってその壁が崩れつつあります。

AI時代の競争構造の変化

  • ・開発コストの低下 → 技術的参入障壁の崩壊
  • ・ビジネス実行力のある企業が技術力の壁を超える
  • ・異業種からの予想外の競合出現リスク
  • ・「今の競合だけを見ていれば安心」という時代の終焉

開発組織リーダーのビジネス理解と興味が薄い

開発責任者の役割変化:コード管理からバリュー・アーキテクトへ
AI時代の開発責任者に求められる役割の変化

日本は恵まれたマーケットです。国内だけでもそれなりのマーケットサイズがあり、かつ競合が多すぎるというわけでもない。この環境が、逆に危機感を薄れさせています。

これまでの日本企業では「開発ができればいい」「開発組織を維持できればいい」という状態で事足りることが多かったかもしれません。しかし、開発コストが下がり、大量の人員が必要という時代は終わりました

この時代の変化に合わせた開発組織を作り、ビジネスのスピードがさらに上がった環境でのマネジメントを考え直す必要があります。本来、この役割に最も近いのは開発責任者のはずですが、開発責任者がこの変革をリードできている企業はまだ少ないのが現状です。

AI時代の開発責任者に求められる変化

従来の開発責任者 AI時代の開発責任者
開発組織の維持・管理 AI活用による開発プロセスの再設計
技術スタックの選定 ビジネス価値創出への直接的貢献
エンジニア採用・育成 AI×人間のハイブリッド組織設計
技術的負債の管理 経営・事業戦略との一体化

AIツールを活用したチーム開発や、AI時代のプロダクトマネージャーの進化が求められる中、開発サイドのリーダーがビジネス視点を持ち、組織変革をリードできるかどうかが企業の命運を分けます。

AIツール付与だけではAI推進は進まない

経営者トップダウンでツールを配っても変わらない

「ツール導入」の罠:アカウントを配っても組織は変わらない
ツール導入だけでは組織は変わらない

「全社員にChatGPTを配布しました」「GitHub Copilotを導入しました」——こうした施策だけでは、組織のAI活用は進みません。AI研修だけでは成果が出ないのと同じ構造です。

ツールを渡しても、具体的に何をすべきか分からなければ使われません。経営者が「AI使って効率化して」と言っても、現場は日常業務で手一杯です。

具体的な課題・方向性を示す伴走が必要

解法は「伴走型(Accompaniment)」:PM機能による強制力と具体性
伴走型支援がAI推進を加速させる

AIを組織に定着させるには、明確なアウトカム定義と、それを実現するための具体的な道筋を示す必要があります。

伴走型の支援で「この業務をこう変える」「この指標をこう改善する」という具体的なゴールを設定し、一緒に進めていく形でなければ、AIは「使えるけど使っていない」状態のままになります。

VCからの要請がAI推進を加速させる構造

VCからの要請は、単なるプレッシャーではなく、企業のAI推進を加速させる「触媒」として機能します。

  • 経営者の背中を押す:「いつかやりたい」を「今やる」に変える推進力
  • リソース配分の変更:AI推進に予算と人材を割く正当性が生まれる
  • 組織の意識変革:経営課題としてAI活用が位置づけられる
  • 外部知見の活用:VCネットワーク経由で専門家支援を受けられる

経営において、外圧を「脅威」ではなく「機会」として活用できる企業が、AIネイティブ経営への転換に成功します。VCからの要請は、まさにその機会なのです。

AI Nativeが提供する「AIネイティブ経営シフト」支援

AI Nativeの支援:CAIO機能の提供と実務実行
AI Nativeが提供するCAIO機能4象限

AI Nativeでは、VCの投資先企業向けに「AIネイティブ経営シフト」の支援を行っています。

CAIO(Chief AI Officer)サービスでは、経営層向けのAI戦略立案から、実際のプロジェクト推進まで伴走型で支援。単なるコンサルティングではなく、旗振り役・PM機能を提供することで、実際にAI活用が組織に定着するまでサポートします。

AI Nativeの支援内容

  • 🎯 経営者向けAI戦略立案:事業に即したAI活用ロードマップの策定
  • 🚀 AI推進PM:プロジェクト企画・推進・成果創出まで伴走
  • 👥 組織変革支援:AIネイティブな組織文化の醸成
  • 📊 成果の可視化:定量的なKPI設計と効果測定

AIネイティブ経営のビジョンを描き、それを実現するための具体的なアクションに落とし込む。VCと連携しながら投資先企業のバリューアップに貢献しています。

まとめ:外圧を活かしてAIネイティブ経営へ

「外圧」を触媒に、自律的な変革へ
VCからの要請を「機会」として活かす3つのポイント

日本のVCが投資先にAIネイティブ経営を求める動きは、今後ますます加速するでしょう。グローバルではThrive CapitalとOpenAIのパートナーシップ、a16zの200億ドルAIファンドなど、ポートフォリオ企業のAI変革を支援する動きが本格化しています。

日本でもダイニーのように、事業が順調でも採用をフリーズしてAX(AI Transformation)に力を割く企業が増えています。AXが進まない企業は、たとえ今は競合より優位でも、中長期的には淘汰されていく——この認識が経営者の間で広がりつつあります。

2026年はその過渡期であり、今から準備を始める企業と、そうでない企業の差は大きく開いていきます。重要なのは、VCからの要請を「プレッシャー」ではなく「変革の機会」として捉えること。そして、AIツールを配るだけでなく、具体的な課題と方向性を示す伴走型の支援を活用することです。

経営戦略としてのAI活用に本気で取り組みたい方は、ぜひお問い合わせください。VCの投資先企業はもちろん、自社でAIネイティブ経営を推進したい企業様もお待ちしております。

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執筆者

田中 慎

田中 慎

CEO / PM / Vibe Coder

2011年新卒で受託開発/自社メディア企業にWebデザイナーとして入社。1年半ほど受託案件のディレクション/デザイン/開発に従事。2012年株式会社サイバーエージェントに転職し、約4年間エンジニアとしてポイントプラットフォーム事業、2つのコミュニティ事業の立ち上げ・運用に従事。同時に個人事業主としてWebサービス/メディアの開発をスタートし、年間3,000万円以上の利益を創出。2017年株式会社overflowを共同創業者・代表取締役CPOとして設立。2つのHR SaaS事業をゼロから立ち上げ、累計1,000社以上の企業、エンジニア/PMなど3万人以上が利用するサービスへと成長させた。現在はAI Nativeの創業者として、AIと人間の共創による新しい価値創造を推進。

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